「社員が仕事でAIを使っているようなんですが、何を入れているのか分からなくて不安なんです。いっそ禁止したほうがいいでしょうか」——先日いただいたご相談です。お気持ちはよく分かります。ただ、私達のおすすめは禁止ではなく、A4で2枚のルールを決めることです。禁止しても、便利なものは個人のスマートフォンで使われます。それなら「ここまでは使ってよい」と線を引いたほうが、会社は安全になります。
なぜ「なんとなく」が危ないのか
AIに文章を頼むとき、多くの方は手元の資料をそのまま貼り付けます。見積書、お客様からのメール、社員の名簿。ここに危なさがあります。
個人情報保護委員会は2023年6月に、生成AIサービスの利用について注意喚起を出しました。要点は2つで、「入力した情報がAIの学習に使われる可能性がある」こと、そして「個人情報を入れるなら、それが本来の利用目的の範囲内かを確かめること」です。
つまり、お客様の氏名や連絡先を「ちょっと文面を整えてもらうため」にAIへ貼り付けるのは、お客様から預かった目的の外になりかねません。悪気がなくても、です。「なんとなく」使っている状態では、こうした線引きが誰の頭にもありません。
ルールは長くなくてよい
大きな会社の「AI利用規程」は何十ページもありますが、社員数人〜十数人の会社に、それは要りません。A4で2〜3枚、項目は6つで十分です。むしろ短いほうが読まれ、守られます。
国も2026年3月に「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」を改定し、AIを使う側にも「最終的な判断は人が行う仕組みを持つこと」を求めています。難しく聞こえますが、やることは「AIが出したものを、人が確かめてから使う」と決めるだけです。
A4で2枚に書く、6つの項目
| 項目 | 書くこと(例) |
|---|---|
| ① 使ってよいAIと入り方 | 会社として使うAIサービスを1つか2つ決め、会社のアカウントで使う。個人の無料アカウントに会社の資料を入れない |
| ② 入れてはいけない情報 | お客様の氏名・住所・連絡先、社員の個人情報、見積の原価や利益、取引先から預かった資料、パスワード。「人に見せられないものは入れない」が目安 |
| ③ 出てきたものは人が確かめる | AIの文章・数字・法律の話はもっともらしい間違いを含む。社外に出す前に、内容を分かる人が読む。責任はAIではなく使った人と会社にある |
| ④ 著作権と画像 | 他社の文章や写真を貼って「同じように作って」と頼まない。AIで作った画像を広告やホームページに使うときは、そのサービスの利用条件を確かめる |
| ⑤ 相談する人 | 「これ入れていい?」を聞ける担当者を1人決める。社長でも事務の方でもよい。判断に迷ったら入れない |
| ⑥ 見直しの時期 | 半年に1回、使っているAIとルールを見直す。AIは半年で様子が変わる |
②は、社員の方に具体的な例で書くのがコツです。「機密情報」と書いても伝わりません。「見積書のPDFをそのまま貼らない」「お客様のメールは名前とアドレスを消してから貼る」まで書いてください。
「入れてもよい形」も、あわせて書く
禁止だけのルールは守られません。「こうすれば使ってよい」を並べて書くと、社員の方は安心して使えます。
- お客様の名前を「A社」「担当者様」に置き換えてから貼る
- 見積は金額を消した項目名だけを貼り、文面の整え方を相談する
- メールの返信文は、相手の文章を要約してから「こういう内容に返したい」と頼む
- ホームページの原稿づくりや、案内文のたたき台は積極的に使ってよい(ただし社名・住所・営業時間などの事実は人が確かめる)
この「入れてもよい形」を1つ覚えると、社員の方は個人情報を抜く習慣が自然につきます。ルールで縛るより、こちらのほうが効きます。
著作権で、いちばん気をつけること
文化庁は2024年7月に「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」を公表し、AIを業務で使う人向けの注意点も示しています。小さな会社が押さえておくのは、次の2つで足ります。
1つめ。他社のものを「お手本」として貼らない。競合のホームページの文章や、雑誌の写真を貼り付けて「この感じで」と頼むと、出てきたものが元とよく似てしまうことがあります。似ていれば、AIが作ったからといって責任がなくなるわけではありません。
2つめ。AIで作った画像は、使う前に条件を確かめる。サービスによって「商用利用できる/できない」「有料プランのみ」など条件が違います。ホームページや看板に使う前に、使っているサービスの利用規約を一度読む。それだけで大半のトラブルは避けられます。
作るときの手順
- まずいま誰が、何に、どのAIを使っているかを聞く(叱らない。事実を集めるだけ)
- 上の6項目を、自社の言葉と具体例でA4に書く。雛形を探して丸写しするより、②の例を自社の仕事に合わせるほうが大事
- 全員に配って10分だけ説明する。読んで終わりにしない
- 半年後に「困ったこと・便利だったこと」を聞いて直す
最初から完璧を目指さないでください。「個人情報を入れない」「出てきたものは人が確かめる」の2行だけでも、何もないより会社はずっと安全です。
私達の現場から
私達も、ホームページの原稿づくりや資料の整理にAIを毎日使っています。そのうえで守っているのは、お客様の情報は名前を置き換えてから使うこと、そして会社のアカウントを使い、入力内容が学習に使われない設定を選ぶことの2つです。
ホームページ制作のご相談で増えているのは、「AIで原稿を作ったので、これで公開したい」というものです。AIの原稿は読みやすいのですが、営業時間や対応エリア、資格の名称といった事実の部分に間違いが混ざることがあります。公開前にその部分だけを一緒に確かめる、という進め方をおすすめしています。
「うちの会社なら、ルールに何を書けばいいか」を一緒に考えることもできます。お気軽にご相談ください。
まとめ
- AIを禁止するより、A4で2枚のルールを決めたほうが会社は安全
- いちばんの危なさはお客様の個人情報や見積をそのまま貼ること。入力は学習に使われる可能性がある(個人情報保護委員会)
- 6項目:使ってよいAI/入れてはいけない情報/人が確かめる/著作権と画像/相談する人/半年に1回の見直し
- 「入れてもよい形」(名前を置き換える・金額を消す)もあわせて書くと守られる
- 他社のものをお手本として貼らない。AI画像は利用条件を確かめてから使う(文化庁)
- まず2行からでよい。半年後に見直す